20230627

BLACK&PINK

近読んで面白かった本2冊を。
『利休の黒 美の思想史』尼ケ崎彬
 
茶道関連の本をわりと読むのですが、最近読んだ中で一番面白かったのがこちら。これ茶道や歴史にそこまで興味ない人でも面白いんじゃないかな。検索したら毎日新聞の書評があったのですが、のっけから「名著である。」で始まる。わかる。
ワビサビという言葉もありますが、日本人てやたら経年劣化でボロボロになったものとか素朴なものとか左右不対象のものとか好きですよね。金継ぎとか。ヴィンテージのデニムがやたら人気なのも繋がるような。民藝とかね。
それは日本の文化の最初からそうだったわけではなくてだんだんそうなっていったんだけども、どういう流れだったのか?ということが茶の湯の歴史とともに読める本です。

しかし昔から思うのですが、「あえての素朴」「あえての田舎趣味」みたいなのが好きでその道のカリスマになるような人って、大抵生まれながらの都会のセレブですよね。ボロボロとは逆の豪華な名品も大いに見て育ったような。そしてそれはなんか分かる。極まるとそっち行くしかないんだろうなあという。
民藝の柳宗悦は生粋の東京のインテリお坊ちゃん、利休を始めとする侘び茶のカリスマたちもみんな堺の豪商とか。世界有数の姫だったマリー・アントワネットもヴェルサイユの中に田舎テーマパーク的なものを作って木綿のシンプルドレスで楽しんでましたし。今でいうなら森泉・森星姉妹とかね。そういうものなんだろうな。


『49冊のアンアン』椎根和

日本のファッション誌で最もレジェンドとされるのは?という問いがあったら。答えはいくつかあるとしても、候補のもしかしなくても一番くらいにあがるのが「初期のアンアン」ではないでしょうか。
その初期のアンアンの編集部員だった椎根和氏による創刊から49号分(!)の詳細な回想録。中から見ていた人にしか書けない内容で興味深く面白いです。オリーブ編集長になる前の淀川美代子さんもいます。
椎根さんの語り口も個性的で、当時としてもぶっ飛んでいるまさに弾丸のような海外や日本全国での撮影スパンやスケールもすごいのですが。

読んでいて私が改めてあっそうか、となったのは、初期のアンアンってとにかくずーっと金子功さんが衣装を担当していて、奥様である立川(金子)ユリさんがモデルなんだなあということです。いや知ってはいたのですが、想像以上に基本全部そうというか。

つまり皆さんも見覚えあるかもしれないこれとか、
これとかもユリさんだし服は金子さん。知ってはいたけれども、でもそうかそうだよなあと。
ちなみにこれは背景のイラストが原田治さん。そうあのOSAMU GOODSの。

つまり日本ファッション誌史上の金字塔である初期アンアンに載っている服って、何を置いても「金子功」なんですよね。設立当初のコムデギャルソンやMILKやKENZO等も載ってますが、それよりなにより金子功が作った大量の衣装によって誌面が構成されている。そしてその創作のミューズは奥様のユリさん。これ、普通に大きなことだよなあ。

あと以前『ラグジュアリー産業』を読んだときにふと思ったのが、日本にルイ・ヴィトンを紹介した最初期の人ってアンアンの金子さんとユリさんだったような?ということ。これ一応記憶が正しかったみたいで、1970年の第3号でユリさんとともに金子さんのヴィトンコレクションが写っています。日本の女性誌でヴィトンが大々的に紹介されたのはこれが初とのこと。そしてこの記事への読者の反響がすごかったらしい。
つまりベルナール・アルノーが世界一のお金持ちになった発端の発端は、半世紀前の金子夫妻のパリ土産選びが上手すぎたせいです。極論すぎ。でもまあ2%くらいはマジでそうかも。当時のアンアンは後に与えた影響が多大なわけなので。

金子功及びピンクハウス周りのことってきちんと総括しようとすると何気に相当難しそうな印象があります。であれほど独特かつ一世を風靡したにもかかわらず、おそらく未だにきちんと論じられていないという。
かように、大きくもどこか掴みどころのない不思議な存在感の金子功氏なのでありました。

20230617

神様兼親爺

ミは知っているか。スマホに防災速報アプリを入れていると札幌では今ひたすらヒグマ注意報が出続けることを。↑は最近の履歴。クマと地震とクマとクマとクマ。なんか冗談みたいでもありますがまあ本当です。

北海道民というのは基本的にクマに対する警戒心は持ってて、単にかわいい動物だと思っている人は多分ほぼいないのですよね。春には毎年どこそこの町の誰々さんが襲われたとか亡くなったとかいうローカルニュースがテレビで流れていて、みんな普通に子供の頃からそれを見て育っているので。鹿児島における桜島の噴火ニュースとか、東北地方の豪雪予報みたいな感じだろうか。兵庫県のY口組ニュースとか?(違?)

にしてもアプリの速報履歴がヒグマで占められる状況はさすがに珍しく。近年クマの活動地域の云々とか駆除の云々とかで人里に降りてくることが多く、札幌市内での目撃情報も増えているようです。
市街地としか言いようのない場所で出社中に襲われて140針の大けがをした方もいまして。これは本当に用心のしようもないと思う。東区ってまったく普通の住宅地で、札幌の中でも中心部寄りのほうです。東区で人がクマに襲われたのは明治11年以来143年ぶりだとか。

でつまり住宅地に突然現れるクマって予測が困難なのですよね。大雨や雷なら予報を見ての気をつけようもありますが。なので出先でえっ今近くにクマいんの!?という場合のためにアプリでどんどんヒグマ情報が出されるということなのだと思います。地震雷火事ヒグマ。そういえばクマのことを山親爺ともいいますが。

千秋庵の山親爺はおいしいですが。雪の結晶モチーフなのも好き。千秋庵は最近別の製菓会社の傘下に入りまして、ちょっとスタイリッシュにリブランディングされてオシャレっぽくなったりなんだりしています。





近気になるブランドのS.S.Daley。デザイナーはイギリス人のスティーヴン・ストーキー・デイリー、1996年生まれ。若! 若いけどちゃんとした服で、ファンタジックさのあるトラッドという感じでかわいい。博物画とかマリンみたいな要素もあって。こういうの好きなんだよな~。サムネイルのやたらクールな紳士はそれもそのはず、イアン・マッケラン卿。
 
世界観はあるんだけどちゃんと着られそうな、リアルクローズ感覚もあるのも若いデザイナーさんらしい気がする。

20230606

耽美のおしごと

近衝撃を受けたのがGUのメンズの革靴。値段の安さもすごいですが、履いてみると木型が異常にいいのです。な、なんで……?ってちょっと戸惑うくらい。
特にメンズの革靴の木型が欧州の老舗靴メーカーみたいな細身のきれいな形で。私が持っているフランス製のサービスシューズとかにかなり近い。なぜなんだ。どこかの老舗靴メーカーの偉い人が木型ごとヘッドハンティングでもされたのだろうか。ファーストリテイリングなら普通にあり得そうで怖い。

店頭で見て一番すごいと思ったのはリアルレザーダービーシューズ?かな、外羽根のレースアップシューズ。デザインも超王道である種洗練されているし、他の何倍もする革靴が全然合わないけどこれは合うっていう人がいっぱいいる気がする。なぜなら木型がすごいから。メンズですが大きめサイズの女性は試してみても良いかもです。

上の写真は私が買ってみたメンズの本革グルカサンダル。元が安いのに更にセールでとんでもない値段だった。レースアップほどのぴたっと感はないですがこれも良い形。安いので質感の良さとかを求めるものではないですが、適度なラフさがスペインとかギリシャあたりの安めの革サンダルっぽくて妙に雰囲気はあります。




ナスイの部屋、アナスイの部屋すぎて好き。こういう部屋に住んでなかったら逆にちょっと嫌だもんな。イメージ的に。 
アナスイって日本であまりに商業的成功を収めていて数十年そこらじゅうに存在しているので、むしろあまり意識しなかったりもしますけど、中華趣味とガーリーを違和感なく組み合わせてひとつの型としてあらゆる層にまで届けたという意味では完全に前人未踏の人ですよね。その能力の一端が、このマキシマリズムの中でも当然バランスと質が保たれている室内からもうかがい知れるというか。完璧主義なんだろうなあ。



もうひとりのクラシカル完璧主義マキシマリストといえばディタ・フォン・ティース。この人のお家も昔からすごい。ディタとアナスイってアメリカ生まれアメリカ育ちのアメリカ人なんだよな。意外ってこともないけども、典型的アメリカン趣味では全然ないよね。

アメリカの(意識的な)ガーリー&非ミニマム&クラシカルの人は、「敢えてのキッチュ」みたいな感覚がキーポイントなのかなという印象があります。特別クラシカルでなくてもソフィア・コッポラとかもガーリーの根底にどこかキッチュ感覚があるイメージ。ある種の生真面目な自己ツッコミ感覚と言い換えてもいいかもしれない。欧州人だとガーリーでももうちょっとゆるっと素っぽいような。



  シミハルさんのツイッターで私服姿を見られることに気づいたぞ。今も本当に少年のようだなあ。コルセットのマダム・クルーナーと永遠の少年がまったく矛盾なく共存しているのがコシさんという感じ。耽美とはそういうものということでもあるだろうし、コシさんが特別というのもあるだろうし。