20230525

街の残像

平館にはカフェスペースがあります。シンプルに古い洋館の中でお茶が頂けますというだけの場所ではあるのですが、結構お気に入りです。静かだし。ロリータさんとかクラシカルなファッションのお嬢さんに合いそう。
豊平館は照明のシーリングの装飾がきれいです。部屋によって描かれている植物が違って、この部屋は薔薇。

カーペットも薔薇。
 
カーテンも、この写真だと見えにくいですが薔薇の柄です。つまりこの部屋は薔薇の間なんですね。と数分経ってから気づきました。薔薇だらけでも色調も抑えめで華美でなくまとまっているのが昔の立派な洋館らしいなあと。


森田たまや吉屋信子、その他さまざまな作家が大正~昭和初期あたりに書いた札幌についての随筆や小説を読むと、大抵すごくヨーロッパ的で美しい街だなあ的なことが書かれているんですよね。当時イギリス人に「日本にもこんな街があるんですね」と言われただとか。
昔はその意味がいまいち分からなくて。まあ碁盤の目みたいで整ってはいるかもだけど別に普通では?と。ビルばっかりだし。
しばらくして分かってきたのが、つまり札幌の街並みは高度経済成長とか札幌オリンピックのあたりで相当変化したのだということです。黒澤映画の『白痴』にも映し取られたような、開拓によって欧州的な洋館が立ち並びつつも素朴な街の姿が、昭和中期を境に現代的なビル街に再開発されたと。
で私は再開発以降のビル街の札幌しか知らないので、大正や昭和初期の札幌の描写を読むと??となっていたというわけですね。昔は小樽みたいな感じだったのかな。

昔の洋館や建物は北海道開拓の村でも見られますし、中心部なら時計台や旧道庁もありますが、中心部から近めで気軽に行ける洋館のひとつが豊平館かなと思います。
豊平館のある中島公園はかつて博覧会が開かれていた場所でもあり、北極塔(もうないですが)や天文台(今もあります)もあって好きな場所です。小堀遠州の茶室・八窓庵もあったりします。森田たま等が言うところのかつての札幌の面影を残した場所といえるでしょうか。



『白痴』(1951)のワンシーン。当時の札幌の街並みが少し見られます。


 
し前に庭のチューリップが盛りでした。フラワーアレンジの技術がないので全部短く切ってわさっと入れるという方式を採用しております。

20230506

伝説をお買い上げ

『ラグジュアリー産業: 急成長の秘密』ピエール=イヴ ・ドンゼ

世界一のお金持ち。と言えば今それはビル・ゲイツでもGAFAのCEOでもなく、LVMHのベルナール・アルノーなのですよね。
ヴィトンにしろディオールやエルメスにしろ、元は貴族やブルジョワ向けの高級品を職人が細々と作って売る小さな老舗の会社でした。それらを集合し、中間層を含む世界中の消費者に大規模に売るようになったのが80~90年代以降のLVMHやケリング等の企業。その辺りのことを説明している本です。なかなか面白かった。
そしてその起点には日本がある。高度経済成長~バブル期の日本人がヴィトンやディオールetc.を突然大量に買うようになり、そこで今の高級ブランドの巨大コングロマリットが始まった……と言ってまあ違わないはず。

読んでいてあ~となったのは、現在のラグジュアリー・ブランドはつまり「高級品の大量生産」をしているのであり、それは矛盾ではあるということ。言い換えると、そうでありながら収益を成り立たせる企業こそがラグジュアリー・ブランドたれるのだということかも。
その矛盾を孕むブランドの購入を世界中に納得させるために重要なのが「ヘリテージ」なのだそうな。ヘリテージとはつまりブランドのストーリー作り。ココ・シャネルの人生の伝説化とか、ディオールのニュールックは当時こんなにセンセーショナルでとか、ヴィトンのトランクは水に沈まないのだとか、そういうやつですね。
いま日本でディオール展が開催されていて人気ですが、これもまさにLVMH社によるヘリテージ発表会なのでは。それが会社のメインの仕事だとすら言えるかも。そりゃあ手間暇かけて催すわけなのだな。


しかし、日本では庶民がやたらと高級ブランドを買うようなフェーズが終わったよなあとも改めて思ったり。もちろん不景気による経済的理由もありますが、もっと大きな流れとしても。身の丈に合うものをうまく着るほうが格好いいよね、という感じになりましたよね。そしてこれって欧米だと昔からそうなのでは。
昔からパリやロンドンのストリートスナップを見ても、みんなGAPとかZARAとか古着とか着てるなあと思ってました。今ならユニクロか。もちろん質の良い服の人はいますが、全身ハイブランドの人とかほぼいない。でみんなちゃんとお洒落という。
日本人のファッションはその領域に入ったのでは。つまり大人になったといいますか。枯れたとも言えるかもだが。

みんながやたらと高級ブランドを買うフェーズは、一昔前の日本から今は中国や東南アジアに移ったのだと思います。多分これって理屈ではなく、人間って国がドーンと経済発展する時代に分かりやすい高級品が欲しくなる生き物なのでは。ある意味本能のような。
別にアジアに限らず、アメリカにも昔「金ぴか時代(Gilded Age)」という時代があってバブリーな高級品が大人気だったし、他の国もそういう時代はあったはず。そしてその「若い」時代を過ぎると、もうそういうのはいいかな……となるのでは。通過儀礼みたいなものなのかも。


 
drop in cafeの若桃のフレンチトースト。桃が出てくるのだと思っていたらこれが出てきて??となりました。で食べてみると確かにほのかに甘い桃の味なのです。おいしかった。若桃とは普通の桃が育つ過程で間引かれた小さい桃の実なのだそうな。また食べたい。