20161116

青い神話



立文学館「2016年の宮沢賢治――科学と祈りのこころ」へ行ってきました。終了前日に滑り込み。こじんまりした展示でしたが好きな感じでした。スズキコージさんの絵や「賢治と鉱物」、仏教、札幌とのかかわりなど、シンプルながら焦点が合っている感じ。


「賢治と鉱物」をデジタルでガジェット的に表現したコーナーが楽しかったです。タブレットの鉱物標本の中から好きな鉱物の写真に触れると詳しい説明と賢治の文章が美しい写真とともに現れて、同じものがプロジェクターで奥の壁に投影されるという。




記念撮影コーナーの手で持つプレートがかわいい。飛行船と賢治の帽子と双眼鏡。




図録(?ていうのかな?テキスト集?)の「科学と祈りのこころ」購入しました。長野まゆみさんや池澤夏樹さんも寄稿していて、なんか買ったほうがいい気がするぞと勘がしたので。長野さんと池澤さんは今回講演もありました。私は行けなかったんだけれども。
ちなみに池澤さんはいまこの文学館の館長であったりします。だからかわからないけど、ここ数年企画が結構イケている気がする。


賢治は人生で3度、北海道を訪れています。特に大正12年の青森・北海道経由の樺太への旅は「銀河鉄道の夜」のモチーフにもなったとか。たとえば「白鳥の停車場」は樺太の白鳥湖がモデルと言われるらしい。札幌の詩も残していて、タイトルはそのまま「札幌市」。

遠くなだれる灰光と
歪んだ町の広場の砂に
わたくしはかなしさを
青い神話にしてまきちらしたけれども
小鳥らはそれを啄まなかった

「青い神話」ってナニ?とか「歪んだ町」って?とか解釈は色々あるそうで。
で、この詩に関する論考も上記の本に載っていまして、ちょっとハッとなったのが「北極塔」についても載っていたこと。



北極塔は大正7年の北海道博覧会のときに作られた、今はもうない塔です。てっぺんに北極星がついていたというもの。これについて書いた私の過去のブログはここ。博覧会の数年後、賢治は教師として修学旅行の引率で会場だった中島公園の拓殖館を訪れており、そのときのことも書き残しています。北極塔を見たかはわかりませんが。そして中島公園は文学館がある場所でもあります。
ちなみに賢治の「ポラーノの広場」のポラーノの語源は、諸説ある中で有力なひとつがPola Star=北極星というものだそう。

20161110

もう白い






んでも札幌で一晩に降った雪の量としては記録的とかで、そういえばあっという間に積もったなあとは思いました。普段の年なら降ったり解けたりを繰り返して積もる量が一晩で根雪に、という感じ。でも私一晩で1メートル近く積もって休校になるような町にも住んでいたことがあるので、言うほど降ったな~!とも思わなかったかも。どのみち根雪はできるわけだしね。
てなわけで冬です。


三枚目の写真の黄色いのは雪かき用スコップです。3つ重なっている。いろんなのがあるけどたいてい柄が長くて雪をすくう部分が平たいプラスチック製。固い氷とか用の金属のもある。ホームセンターならまず売っていて、どこの家にもあります。別に黄色と決まっているわけではなく青でも赤でも紫でもあるけど、なぜか今うちには黄色ばかりが。色が派手なのは多分白い雪用の道具だからだと思う。アウトドア用品の色が派手なのと似てる。



読んでいるのはウラジーミル・ソローキンの「青い脂」です。ソローキンは以前から読んでみたくてまず「氷」を読んだんですが、なんか難しそう……と想像していたよりザクザク読めたしなるほど面白いなと。で「青い脂」にトライ中です。「氷」とも雰囲気が違いつつすごく面白い。これは人気があるのがわかるなあ。ワケわからないんだけどなぜかワケわかる、ような。
あと小説に限らずロシアって今なんだかブームな感じがする。かわいいというより殺伐としたほうのロシア。


2016年は小説はW・G・ゼーバルト→アンナ・カヴァン→ソローキンとハマって読みました。ゼーバルトは「目眩まし」「アウステルリッツ」、カヴァンは「アサイラム・ピース」が好きだったな。私は海外文学にそんなに詳しいわけではないですが、興味を持った小説家の作品が日本語訳でわりあい気軽に(まあ安くはないけど)手に取れるのって、ありがたいことなのだろうなと。





80年代に私が人生で初めて触れたロシアいやソビエト物、アニメ「森は生きている(1956年)」。5歳くらいだったかな。親が買ってくれたものです。特にアニメに造詣がある親だからとかではなく、当時売っていたレーザーディスクの中で見つけられた数少ない子供向けがこれと「イワンの仔馬」「くるみ割り人形」だったようで。家にあったアニメのソフトはこの3つだけで、それぞれ百回は見てると思う。なので絵とか動きとか完全に記憶に刻まれてます。
ロシアなので木の雪の積もり方とかとてもリアル。創作物の中の雪国の描写を見て「見覚えあってなんかヤダ……」てなったのもこれが最初な気がする(笑)。

20161106

道化師



「あるるかん ―道化師―」 林海象/三上博史/篠山紀信

映画「二十世紀少年読本」の写真集です。この映画のあらゆる意匠が大好きなのでゲット。1989年刊。よく思うことだけれども、バブル時代のコンテンツって写真集であれ何であれ本当にお金がかかってるよね……。これもきちんと手のかかったきれいな本です。


いわゆる「少年系」「少年世界」的な世界観ってありますよね。そういうのを表す正しい言葉が分からないので勝手にザックリと便宜的にそう言っているのですが。こう、ビー玉な、硝子な、螺子な、時計な、アンティックな、鉱物な、錆的な、懐古的な感じ?この写真集もまさにそういう系統の雰囲気。映画より更にオブジェクト趣味的かもしれない。そしてこの時代的でもあると思います。



『むかしサーカスがありました。といっても遥かむかしのことでなく
二十世紀を生きていた少年たちの甘く切ない憧れの「三日月大サーカス」の物語。』




内容は映画のままピエロでサーカスで妖しい感じで、きれいなデザインも施されています。アンモナイトの機械に切手、コラージュ。
私は昔から一番好きな美術監督が木村威夫さんで、一番好きなメイクアップアーティストが渡辺サブロオさんで、最も気になるスタイリストの一人が伊藤佐智子さんなのですが、そのお三方が見事に揃っている映画でもあります。のでどこを見ても楽しいです。





ラマ「ファーゴ」を見終わりました。面白かった。
ラストのレスター(マーティン・フリーマン)のもはや笑うしかないような様が物悲しくて好きでした。行くべきではない、けれど時に人間が行ってしまう「あちら」と「こちら」を行き来したり垣間見たりする人たちの話だと思うのですが、レスターは周囲の声に耳を貸さずに「あちら」へ行ってしまう。迂闊さゆえに気づかぬうちに自分の足元に巨大なひび割れを作り、元へ戻れなくなる……という。それを雪国の自然を使って表現していて、なるほどなあと。
で、「自分のしたことに“足”を取られる」という意味ではマルヴォ(ビリー・ボブ・ソーントン)も同じラストを迎えるのだなあ。なんともよくできたドラマでありました。


お芝居ではビリー・ボブ・ソーントンとキース・キャラダインの、ダイナーでのピリピリするような攻防がすごかった!ビリー・ボブはドラマの間中ずっとナニ考えてるのか分からないヘンな人感が漂っているんだけど、この攻防の時だけは敵(キャラダイン)もさるものだと気づいて表情が人間っぽくなるんだよね。ほんの数秒。お芝居できる人ってすごいなあ。