『ラグジュアリー産業: 急成長の秘密』ピエール=イヴ ・ドンゼ
世界一のお金持ち。と言えば今それはビル・ゲイツでもGAFAのCEOでもなく、LVMHのベルナール・アルノーなのですよね。
ヴィトンにしろディオールやエルメスにしろ、元は貴族やブルジョワ向けの高級品を職人が細々と作って売る小さな老舗の会社でした。それらを集合し、中間層を含む世界中の消費者に大規模に売るようになったのが80~90年代以降のLVMHやケリング等の企業。その辺りのことを説明している本です。なかなか面白かった。
そしてその起点には日本がある。高度経済成長~バブル期の日本人がヴィトンやディオールetc.を突然大量に買うようになり、そこで今の高級ブランドの巨大コングロマリットが始まった……と言ってまあ違わないはず。
読んでいてあ~となったのは、現在のラグジュアリー・ブランドはつまり「高級品の大量生産」をしているのであり、それは矛盾ではあるということ。言い換えると、そうでありながら収益を成り立たせる企業こそがラグジュアリー・ブランドたれるのだということかも。
その矛盾を孕むブランドの購入を世界中に納得させるために重要なのが「ヘリテージ」なのだそうな。ヘリテージとはつまりブランドのストーリー作り。ココ・シャネルの人生の伝説化とか、ディオールのニュールックは当時こんなにセンセーショナルでとか、ヴィトンのトランクは水に沈まないのだとか、そういうやつですね。
いま日本でディオール展が開催されていて人気ですが、これもまさにLVMH社によるヘリテージ発表会なのでは。それが会社のメインの仕事だとすら言えるかも。そりゃあ手間暇かけて催すわけなのだな。
昔からパリやロンドンのストリートスナップを見ても、みんなGAPとかZARAとか古着とか着てるなあと思ってました。今ならユニクロか。もちろん質の良い服の人はいますが、全身ハイブランドの人とかほぼいない。でみんなちゃんとお洒落という。
日本人のファッションはその領域に入ったのでは。つまり大人になったといいますか。枯れたとも言えるかもだが。
みんながやたらと高級ブランドを買うフェーズは、一昔前の日本から今は中国や東南アジアに移ったのだと思います。多分これって理屈ではなく、人間って国がドーンと経済発展する時代に分かりやすい高級品が欲しくなる生き物なのでは。ある意味本能のような。
別にアジアに限らず、アメリカにも昔「金ぴか時代(Gilded Age)」という時代があってバブリーな高級品が大人気だったし、他の国もそういう時代はあったはず。そしてその「若い」時代を過ぎると、もうそういうのはいいかな……となるのでは。通過儀礼みたいなものなのかも。


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