20250116

少女趣味としてのコム・デ・ギャルソン

粉蝶『カンタン服でいくわ ~銀さんの春夏秋冬~』
女優の銀粉蝶さんのスタイルブック。数年前『大人になったら、着たい服』で私服姿を拝見してお洒落な方だなあと思っていまして、その後この本の出版を知り、気になって当時結構すぐに購入した記憶があります。読むとやはりとても好みで。

私の昔からの勝手な印象に、「ガチのお洒落な大人はコムデギャルソンをいかにもなギャルソン的にせずに着こなす」というのがありまして。ギャルソンを個性的というよりも、トラッドにさらりと着る人って玄人だなあと。
銀さんはまさにそのタイプだと思います。私服のギャルソン率が高いのですがあくまでカジュアル&トラッドな着こなしです。で、おおほんとのお洒落な大人の人だ……!と。

コムデギャルソンといえば。もちろんザ・アヴァンギャルドなパリコレブランドですよね。しかし、1981年のパリコレ進出より前にあたる本当の初期は、むしろ女学生の制服のようなデザインのブランドだったと当時を知る方たちの話や文章で見ます。つまり今よりもシンプルで少女的な印象のブランドだったのでは。
銀さんがギャルソンに出会ったのもその頃で、鈴屋の「REI KAWAKUBO」コーナーでひと目惚れしたそうです。つまりブランド名がコムデギャルソンになる前。本当のブランド最初期ですね。
そして実は、ギャルソンでは今も少年少女的なワンピースやパンツやシャツはずっと定番アイテムでもありますよね。丸襟も多い。今でもギャルソンの根底はガーリー&トラッドなのだと思います。コレクションでどれだけ前衛的であろうとも。
ギャルソンのワンピースを着る銀さん。シンプルで丸襟で制服っぽくて王道な、大人のガーリー。赤カーデ×グレー×黒小物の色合わせもかわいい。

Jane Marpleのデザイナーの村野めぐみさんも初期のギャルソンがお好きだったそうです。
中村のんさんの過去の記事より。村野さん、とってもシティガールだ。あの「ゴローズ」の元店員さんでもあります。
中学の卒業式で(!)着たギャルソンの「リセエンヌの制服のようなセットアップ」が、デザイナーを目指したきっかけとのこと。Janeのデザイナーさんが初期のギャルソンに影響を受けたというのは、意外なようでいて個人的には納得なのです。共通点はつまりガーリー&トラッドでは。村野さんの来歴はこちらの記事も。
銀さんと村野さんは、初期の制服的ガーリーなコムデギャルソンをリアルタイムで着られていた方たちなのですね。


銀粉蝶さんのことは舞台出身の女優さんと知ってはいました。がどういう方か詳しくは知らなくて。この本で「ブリキの自発団」という劇団の創立者であることを知りました。ブリキの自発団はうっすら気になってはいて、あっそうか!とここで繋がりました。


ブリキの自発団は1980年代の映像がYouTubeにまるっとあります。昔の舞台映像は残りにくいから貴重だ。まさにノスタルジックな少年少女的な感じ。頭が地球儀?やお月様になっている。この雰囲気、私は当時見られたら好きだったろうなあ。
左は片桐はいりさん。衣装が少年でかわいい。

演劇と少年。少年的ファッションの女性には演劇関係の方が多い印象があります。他の服飾ジャンルと比べても明らかに率が高いような。トラッドでマニッシュという意味では、銀粉蝶さんも大きくくくるとそうかな。
たとえば私が芸能人で私服で靴下留めをした方を初めて見たのは多分、二十年くらい前の森永理科さんです。森永さんは月蝕歌劇団。コシミハルさんは東京グランギニョル。ケラさんの奥様の緒川たまきさんは鉱物マニアのタルホ好き。
男性ですがアートとしての少年×靴下留めの元祖かもしれない四谷シモンさんは状況劇場。あと靴下留めといえば『1999年の夏休み』は脚本の岸田理生さんが劇作家ですよね。

かつてのポンキッキーズのメガネ少年の山田のぼるくん。中の人の高泉淳子さんは遊◎機械/全自動シアターの俳優です。舞台上の少年のキャラクターがそのままの姿で毎朝全国テレビに出ていたのがのぼるくんです。
維新派とか少年王者舘とか、多数の女性が少年を演じる劇団も少なくないですよね。まず単純に女性は声や身体的に少年役を演じやすいのは大きそう。オペラのズボン役となると相当歴史が長いのでは。


『カンタン服でいくわ』で特にわかる!となった箇所がありまして。銀さんは「少女趣味のつまったマニッシュが好き」なのだそうです。とてもわかる。私もカジュアルやトラッドやボーイッシュだったりしますが、自分のその基盤は少女趣味にあると思っています。
少女趣味としてのギャルソン、演劇と少年的装い、ベースにあるトラッド。昔から私の中で何かしら通底するものを感じていたそれらの要素を、実際に繋ぐ存在が銀粉蝶さんかもしれません。